夫に海外赴任の辞令が出てから、家族で出国するまで、わたしには約1年ありました。
その1年で、できることはひととおりやったつもりです。銀行口座を減らして、保険を見直して、車を売って。児童手当も、住民税も、年金も、事前に調べて手を打ちました。
それでも、たった1つ忘れたことがあります。
そのため、いまも困っています。海外に出る前に手続きさえしていれば、と後悔していることがあります。
会社は、手続きの案内はくれます。住民票、保険、ビザ、引っ越し。
でも「それで、うちの家計は結局どうなるのか」は、誰も教えてくれません。
この記事でわかることは、次の3つです。
- 赴任で家計の何が増えて、何が消えるのか
- 出国前にしかできない手続き(あとからでは取り返しがつかないもの)
- 手当が増えたのに、毎月の貯金が減った理由
2026年9月時点の情報でまとめました。
赴任で家計は「増える」のではなく「入れ替わる」
先に結論から書きます。
海外赴任で家計は、単純に増えるのではありません。入るものと出るものが、まるごと入れ替わります。
| 増えるもの | 消えるもの |
|---|---|
| 海外勤務手当・ハードシップ手当 | 帯同する配偶者の収入 |
| 住居費・学費の会社負担 | 児童手当 |
| 日本の所得税がかからなくなる | ふるさと納税の効果 |
| 住民税が翌年度から消える | 住宅ローン控除(届出をしないと) |
こう並べると、増えるほうが多く見えます。実際わたしも、そう思っていました。
でも、いま正直に書きます。
わたしの家は、車を持っていません。家賃も会社が負担してくれています。それでも、毎月の貯金は日本にいたころより減りました。
条件はそろっていたのに、です。理由は記事の最後に書きます。
はい。ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
収入はこう変わる(手当より大きいのは、配偶者の収入)
まず、あまり語られていない前提から書きます。
駐在に帯同する配偶者のほとんどは、仕事をしていません。
退職して帯同する人。休職して帯同する人。わたしのまわりも、ほとんどがどちらかです。働いている人は、かなりの少数派です。
つまり多くの家庭で、赴任と同時に配偶者の収入はゼロになります。 共働きだったなら、年に数百万円です。
手当より、こちらのほうが大きいことは珍しくありません。
手当の相場
そのうえで、増えるほうを見ます。
EY税理士法人が2025年1〜3月に245社に聞いた調査では、海外勤務手当の中央値は次のとおりでした(EY Japan)。
| 役職 | 海外勤務手当(月額・中央値) |
|---|---|
| 部長クラス | 16万5,000円 |
| 課長クラス | 14万2,000円 |
| 一般スタッフ | 11万円 |
これとは別に、ハードシップ手当がつくことがあります。赴任地の暮らしにくさに応じて出るお金です。
同じ調査での中央値は、こうでした。
- 北京・バンコク … 3万5,000円
- ハノイ … 5万4,500円
- マニラ … 6万8,000円
- ジャカルタ … 7万5,000円
- ニューデリー … 12万円
同じ会社でも、赴任する都市が違えば金額が変わります。
ただし、これはあくまで全体の真ん中の数字です。
手当も、住居費や学費をどこまで会社が持つかも、会社の規程でまるで違います。
うちがいくらもらっているかは書きません。会社ごとに違いすぎて、かえって参考にならないからです。
かわりに、確認しておく項目を並べます。ご主人の会社の規程と、照らし合わせてみてください。赴任前の家計は、この表が埋まらないと組めません。
| 項目 | 見るところ |
|---|---|
| 海外勤務手当 | 月いくらか。日本の給与に上乗せか、現地で払われるか |
| ハードシップ手当 | 赴任地で変わる。都市が違えば金額も違う |
| 住居費 | 全額か、上限つきか。上限を超えた分は自己負担か |
| 光熱費・通信費 | 住居費に含まれるか、別か |
| 学費 | 日本人学校かインターか。どちらまで出るか。制服・教材・スクールバスは |
| 一時帰国 | 年に何回、家族何人分の航空券が出るか |
| 医療 | 現地の保険に入るのか。日本の健康保険との関係はどうなるか |
| 赴任支度金 | 一時金があるか |
| 家財の保管料 | 日本に残す荷物の保管を会社が持つか |
| 語学の研修 | 帯同する家族も対象か |
| 帰任のとき | 帰りの引っ越し費用と、帰国後の住居の補助があるか |
いちばん下の行を、忘れずに聞いてください。帰るときのことは、赴任前だと誰も気にしません。 でも、帰国はいつか来ます。
わたしの場合
わたしは公務員を退職したあと、たまたまオンラインで仕事を受ける機会に恵まれました。 そのおかげで、いまも仕事は続けられています。
ただ、正直に書きます。お小遣い稼ぎ程度です。 公務員だったころとくらべたら、収入は大きく減りました。
そして繰り返しますが、これは駐在妻のなかでは少数派です。 続けられたのは、運がよかったからだと思っています。
もうひとつ、続けるうえで気をつけたことがあります。
帯同ビザには、働くことに制限があります。
中国の個人所得税は、基礎控除が年6万元です(JETRO)。2026年9月時点のレート(1元=約24円)で計算すると、だいたい144万円です。
これを超えたら、現地で納税の手続きが要ります。
扱いは国とビザの種類でまったく違います。オンラインで日本の仕事を続けたい方は、自己判断せず、出国前にご主人の会社に確認してください。
税金は「1年目」と「2年目」で違います
1年以上の予定で赴任すると、税の上では「非居住者」という扱いに変わります。
所得税は、海外で働いた分の給与にかかりません(国税庁)。出国の日までに、その年の年末調整をしてもらう形になります。
住民税は、少し時間差が出ます。
「1月1日に日本に住所があるか」で決まるうえに、前の年の所得に対して課税されるからです。
整理すると、こうです。
| 住民税 | |
|---|---|
| 出国した年度 | かかります。 前の年に日本で働いた分。出国前に一括で引かれるか、納税管理人に納めてもらいます |
| 翌年度から | かかりません。 1月1日に日本に住所がないため |
ここで、覚えておくとよいことを1つ。
年内に出国するか、年明けに出国するかで、1年分の住民税が変わります。
出国の時期は会社が決めることがほとんどですが、選べる場合は知っておいて損はありません。扱いは自治体で違うので、お住まいの市区町村で確かめてください(品川区、中央区)。
黙って消えていくもの(会社は教えてくれません)
ここからが本題です。手続きをしないと損をするものを3つ挙げます。
1. 児童手当は、止まります
海外に住む児童には、児童手当は原則として支給されません(こども家庭庁)。
留学の例外はありますが、親と一緒に住む帯同は当てはまりません。
金額はこうです。
| 子どもの年齢 | 月額 |
|---|---|
| 3歳未満 | 1万5,000円 |
| 3歳〜高校生年代 | 1万円 |
| 第3子以降 | 3万円 |
子どもが2人なら、月2万円。1年で24万円です。
これが、何の予告もなく止まります。
2. ふるさと納税は、年によって効きません
さきほどの「1月1日ルール」が、ここで効いてきます。
ふるさと納税の住民税控除は、寄附した年の翌年の住民税から引かれます。
ところが寄附した年の年末までに出国すると、翌年の住民税そのものが発生しません。
引くべき税金がないので、控除も受けられないというわけです。
出国する年のふるさと納税は、慎重に。 年明けの出国なら、その年の分は効きます。
3. 住宅ローン控除は、届出を出さないと再開できません
持ち家がある方は、これがいちばん大きいかもしれません。
出国する前に、税務署へ1枚の届出を出しておく必要があります(国税庁)。
名前は「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」。提出先は、家屋のある場所の税務署です。
これを出しておかないと、帰国して住み直したときに、残りの期間の控除を再開できません。
提出の期限は「居住しなくなる日まで」です。出国してからでは間に合いません。
わたしのときは、案内に1つも入っていませんでした。
住居や引っ越しの案内はあります。でもこの3つは、家庭ごとの事情なので会社の守備範囲ではないのだと思います。自分で調べるしかありません。
わたしはここに挙げた3つを、出国前に全部調べて対応しました。
それなのに、1つだけ落としました。
1年かけて準備して、それでも忘れたこと:銀行の「振込先登録」
制度は全部調べたのに、落としたのはいちばん日常的なところでした。
夫の口座はプレスティア(SMBC信託銀行)で、日本の口座にも給与が振り込まれます。
ところが海外に出てから、そのお金をわたしの口座へ動かせないことに気づきました。
新しい振込先の登録が、海外からはできなかったのです。
さらに困ったことに、これは名義人本人しか手続きできません。 妻のわたしが代わりにやることもできませんでした。
しかも夫は、家族より先に単身で赴任していました。出国前に口座を確認する時間が、そもそもなかったのです。
結果どうなったか。
一時帰国のたびに、ATMから手で引き出して移動させています。 いまもです。
はい。制度の勉強はあれだけしたのに、いちばん日常的なところで詰まりました。
出国前にやっておくこと
同じ思いをしないために、これだけはやってください。
- 名義人本人が、日本にいるうちに、必要な振込先を全部登録しておく
- 登録先の例:家族の口座、日本に残す家賃の引き落とし先、実家、子どもの習い事
- 「海外から何ができて、何ができないか」を、自分の銀行に一行ずつ確認する
わたしの口座はネットバンクなので、海外からでも自由に使えています。銀行によって扱いがまったく違います。
ただし、便利だったこともあります
失敗の話ばかりになったので、同じ銀行でよかったことも書いておきます。
アプリで外貨を買えるのが、とても便利です。
現地の通貨(人民元)が足りなくなったとき、アプリで買って中国の銀行口座へ移しています。
旅行のときも同じです。行く前にアプリでその国の通貨を買っておくと、現地で日本円から直接両替するより、レートも手数料も有利になることが多いです。
レートも手数料もそのときどきで変わります。「必ず安くなる」とは言えないので、ご自身で見くらべてください。
つまり同じ銀行でも、「振込先の登録はできない」けれど「外貨の準備はアプリで完結する」のです。
できること、できないことは本当にバラバラです。出国前に、自分の銀行で確かめておいてください。
出国前にやったこと(時系列チェックリスト)
わたしが実際にやったことを、時期の順に並べます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 半年〜1年前 | 銀行口座を減らす/保険の見直し/車の売却 |
| 3か月前 | 予防接種のスケジュール/ビザ/パスポート/荷物の仕分け |
| 1か月前 | 海外転出届/納税管理人の選任/年金の届出/住宅ローン控除の届出/銀行の振込先登録 |
| 直前 | 賃貸の明け渡し/日本でのまとめ買い |
いくつか補足します。
保険は、出国前に見直してください。 既にある契約は、保険料を払い続ければ有効に続けられるのが一般的です(生命保険文化センター)。
ですが、新しく入ることも、解約することも、海外に出てからではできません。 健康状態の告知が必要な手続きも同じです。
続けるものと、やめるものを、日本にいるうちに決めてください。(扱いは保険会社によって違うので、契約先にも確かめてください)
海外転出届は、出国予定日の14日前から出せます。
納税管理人は、日本での確定申告や納税を代わりにしてもらう人です。自治体によっては出国の10日前までという期限があります。
年金は、届出をすれば空白になりません。
会社員の配偶者として扶養に入っている方は、2020年(令和2年)4月から「日本国内に住んでいること」が条件に加わりました。
ただし例外があります。海外赴任に同行する家族は「海外特例要件」に当てはまります(日本年金機構)。
ご主人の勤務先を通して届出をしてください。出さないと、年金の記録に穴があきます。
証券口座・NISAについては、別の記事にまとめました。こちらも出国前にしかできない手続きがあります。
→ 海外赴任でNISAはどうなる?「解約するしかない」はもう古い情報です
実際にやってみて、大変だったこと
いちばん大変だったのは、一人での引っ越しでした。
荷物を3つに分けます。船便、航空便、そして日本の住所に送るもの。 航空便には重さの制限があるので、何を先に送るかを一つずつ決めていきます。
そのうえで、賃貸アパートの明け渡しまで一人でやりました。夫はもう赴任していましたし、実家も遠い場所にあります。
友達に助けてもらって、なんとか終わりました。 あのとき手伝ってくれた人たちには、いまも感謝しています。
予防接種は、1か月に詰め込みました。
1回に3本打つ日もありました。「次は何週間後に打つこと」と細かく決まっているので、順番を崩せません。熱を出したら全部やり直しになるので、その1か月はとにかく体調に気をつけて過ごしました。
買っていったものも書いておきます。
日本の食品、薬、子どもの服と文具、学校で使うもの、コンタクト用品。
正直、ほとんどのものは現地でも買えます。
でも、お気に入りのこだわりの醤油やお酢だけは手に入りません。これは日本でまとめて買って持っていきます。いまも一時帰国のたびに買っています。
なぜ、家賃も車もないのに貯金が減ったのか
最後に、冒頭の答えを書きます。
答えは単純です。増えた分を、旅行と食事に使ったからです。
海外旅行も、国内旅行も、たくさんしました。せっかく海外にいるのだから、行ける場所には行っておきたい。そう思ったからです。
国慶節にプーケットへ行ったときは、100万円くらいかかりました。
外食も増えています。日本にいたころなら選ばなかったお店に、当たり前のように入るようになりました。
念のため書いておくと、資産そのものは増えています。 減ったのは、毎月の貯金額のほうです。
ですが、後悔はしていません。子どもたちと過ごせた時間は、お金には代えられないと思っています。
駐在中は、日本ではできない経験がたくさんあります。
だからわたしは、この数年は「使う力」のフェーズに移っていたのだと考えています。貯めることだけを見ていたら、この時間は手に入りませんでした。
いま本帰国の話が出て、家計を組み直しているところです。子どもの進路も、同時に考え直すことになりました。
→ 帰国子女の高校受験は「帰る時期」と「帰る場所」で変わります
日本に帰ったら、自分たちのペースで、心地よい「貯める力」と「使う力」のバランスに戻していけたらいいなと思っています。
まとめ
長くなったので、3つにまとめます。
- 家計は増えるのではなく、入れ替わります。 とくに消えるもの(配偶者の収入、児童手当)は目に見えないので、先に数えておいてください
- 出国前にしかできない手続きがあります。 住宅ローン控除の届出、年金の届出、そして銀行の振込先登録。あとからでは取り返せません
- 駐在中に使ったことを、わたしは後悔していません。 日本ではできない経験がたくさんあるからです。ただ手当には期限があります。帰ったあとのバランスも、どこかで一緒に考えておくと迷いません
まずやってほしいのは、出国日から逆算して、期限のあるものをカレンダーに入れることです。
Googleカレンダーなどに通知つきで登録しておくと、忘れずに済みます。スマホのメモに「やることリスト」を作って、終わったものから消していくのもおすすめです。
この記事のチェックリストを、そのまま使ってください。「1か月前」のところに銀行の振込先登録を入れておいてもらえたら、この記事を書いた意味があります。
赴任前の家計、いっしょに整理しませんか
「手当がいくらになるか分からないまま、生活費をどう決めればいいか」
「共働きをやめると、うちの家計はどうなるのか」
こういうことは、一般論では答えが出ません。ご家庭の数字を見ないと分からないからです。
わたしは同じ立場で駐在に帯同し、いま帰国を考えているFPです。制度も、実際の暮らしも、両方の側から見てお話しできます。
初回のご相談は5,000円です。お問い合わせの時点では費用はかかりません。記事の感想やご質問だけでも大丈夫です。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。税や社会保障の制度は改正されます。実際にご判断される際は、必ず公式サイトや、お住まいの自治体・勤務先でご確認ください。
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